25歳の女性。交通事故による外傷性脳損傷(右前頭葉)。職場復帰を希望している。WAIS-Ⅲでは言語性IQが76、動作性IQが106、全検査IQが89。RBMTが19点、TMT-Aが81秒、TMT-Bが90秒、BADSが104点、FIMが120点。対人交流は良好である。2か月後の事務職への職場復帰を目的とした練習として適切なのはどれか。
1→電話の受付は優先度が低い。なぜなら、本症例では、言語性IQが境界域にあり、注意力の低下が顕著であることから、他に優先すべき選択肢が存在する。境界領域というのは、知的障害とは言えないものの、適切な環境を選択すれば社会生活を自立して送れる可能性がある一方で、場合によっては十分な理解と支援が必要となるレベルである。電話の受付に関しては、基本的な応対マニュアルは用意されているが、応用的な質問に対しては臨機応変に対処しなければならないため、事前に練習を重ねる必要がある。
2→企画書の作成は優先度が低い。職場にもよるが事務職において企画書を作成すること自体稀である。企画書は、「新しいアイデアや提案をまとめた資料」のことであるが、事務職ではなく企画部が担当となることが多い。企画書の作成は、会社全体の不足部分を客観的に見れ、その企画の構成を考え、わかりやすくまとめ、パソコンを使用して打ち込み、書類を作成するという能力が必要となる。
3→書類の片付けは、2か月後の事務職への職場復帰を目的とした練習になるため適切だと言える。書類を仕分けは、特に注意の持続性と転換(導)性が必要になる。書類の整理は、事務職に就いたらすぐに担当したり協力したりする業務の一つであり、書類をカテゴリー別に分けて、それぞれの場所に置く必要がある。
4→会議の要約報告は優先度が低い。なぜなら、職場にもよるが事務職において会議の要約報告をすること自体稀である。会議の要約報告は、聞き取った内容を簡潔に明確に伝える能力が求められる。本症例は、言語性IQが低く言語処理に困難があるため、この能力に欠けている。職場では、この状況を理解しサポートする必要がある。
5→金銭の会計処理は優先度が低い。なぜなら、中小企業でも金銭の会計処理は経理担当者が行うため。仮に事務職(本症例)が行う場合でも、一つのミス(桁を一つ間違えるなど)で会社に大きな損害を被る重要な業務であるため、任されること自体低いと考えられる。本症例のTMT-A:81秒、TMT-B:90秒(標準値はA30秒以下、B64秒以下である。)という結果から、ミスをするリスクが高いと判断される。そのため、復職に向けて自信を持つことが難しいと思われる。